「今期の目標はこれだ。必達で頼む」——そう言われた部下が、心の中でつぶやきます。「また無理ゲーか…」
あなたのチームにも、似たような空気が漂っていないでしょうか。数字だけ渡され、背景も選択肢もない「やらされ目標」。それに対してZ世代は、かつてないほど冷めた反応を示します。彼らの問題ではありません。目標設定のプロセスそのものに、根本的な課題があるのです。
本記事では、Z世代が主体的に動き出す「目標の共創プロセス」を解説します。MBO(目標管理)をアップデートし、GoogleやIntelが採用するOKR的アプローチを現場に落とし込む実践的な方法を、具体例とフレームワークとともに紹介します。読み終えた頃には、「この目標、面白そうですね。やりましょう」と部下が自ら走り出す設計図が手に入るはずです。
なぜZ世代は「やらされ目標」を嫌うのか
納得感のない決定には従わない世代
Z世代(1996年〜2012年生まれ)の価値観の核心は、「自己決定」と「意味のある参画」にあります。彼らはSNSネイティブとして育ち、情報を自ら選択し、コミュニティへの貢献度によって自己価値を測る文化の中で成長しました。そのため、「自分が関与していない決定」に対して、根本的な違和感を抱きます。
これは反抗心でも怠慢でもありません。むしろ逆で、自分が関わって決めたこと(コミットメント)には、非常に強い責任感を持つという特性の裏返しです。上から降りてきたノルマには冷めるが、自分で設計した目標には本気で向き合う——この構造を理解することが、Z世代マネジメントの出発点です。
Z世代の価値観や行動原理についてより深く理解したい方は、Z世代基礎ガイド:価値観・信頼構築・心理的安全性も参考にしてください。
「やらされ目標」が引き起こす3つの弊害
目標が一方的に与えられる組織では、以下の問題が構造的に発生します。
- サンドバッキング(目標の低め申告):達成できないと怒られるから、わざと低い数字を出す。組織全体の成長機会が失われます
- 手段の目的化:「数字さえ達成すればいい」という思考になり、プロセスの倫理観が崩れやすくなります
- モチベーションの喪失:「自分の人生と関係ない」と感じた瞬間、Z世代は静かに離脱します。いわゆる「静かな退職(Quiet Quitting)」の温床です
Z世代が離職を選ぶ背景には、こうした「やらされ感」が深く関係しています。離職データからその実態を知りたい方は、Z世代が辞める本当の理由:離職データから見る真実をご覧ください。
解決策の核心:目標設定を「伝達」から「共創」へ
OKRが変えた目標管理の常識
OKR(Objectives and Key Results)は、1970年代にインテルのアンドリュー・グローブが開発し、のちにGoogleをはじめ世界中のテック企業が採用した目標管理手法です。日本でもその概念は広まりつつありますが、本質的なエッセンス——「ワクワクする定性目標から始める」という点が、しばしば見落とされています。
OKRの構造は2つの要素で成り立っています。
- O(Objective):定性的な目標——達成困難だが魅力的な状態を言語化したもの。例:「地域で一番愛される店舗になる」「伝説のカスタマーサポートを作る」
- KR(Key Results):定量的な指標——Objectiveが達成されたかを測る具体的な数値。例:「リピート率80%」「クレーム対応時間50%削減」
重要なのは順序です。数字(KR)ではなく、ワクワク(O)を先に語り合うこと。「前年比105%」という数字の羅列ではなく、「業界の常識を覆す」という物語から入ることで、Z世代の内発的動機が火を噴きます。OKRをより体系的に理解したい方は、OKRの完全理解:2026年版目標管理の新常識を参照してください。
MBOとOKR、どう使い分けるか
MBO(目標管理制度)は日本企業に広く普及していますが、「上から降りてくる数値目標」として運用されているケースが多く、Z世代との相性は良くありません。一方OKRは、目標の設定プロセス自体に部下を巻き込む設計です。
両者を対立概念として見るのではなく、「評価制度としてのMBO」と「動機づけの仕組みとしてのOKR」を使い分ける視点が現実的です。自社の状況に合わせた手法選択については、MBOとOKRの使い分け:自社に最適な手法選択が参考になります。
実践フレームワーク:目標合意の4ステップ
以下は、Z世代と目標を共創するための具体的なプロセスです。1on1や面談の場で、このステップを意識して実施してください。
ステップ1:個人のWillを聞く
「将来どうなりたい?」「どんなスキルをつけたい?」「3年後、どんな仕事をしていたい?」——まず部下の内側にある欲求を引き出します。ここで重要なのは、評価や判断をせずに純粋に聴くこと。答えが出てくるまで沈黙を恐れずに待つ姿勢が信頼を生みます。
傾聴の技術については、傾聴の3つのレベル:部下の本音を引き出す聴き方に詳しくまとめています。
ステップ2:組織のMustを伝える
「会社は今、ここを目指している」という組織の方向性と現状を、できるだけ透明性を持って共有します。数字の背景にある理由、市場環境、チームとしての役割——これらを「なぜ必要か」という文脈と一緒に伝えることで、部下は「自分がその一部である」という感覚を持てます。
ステップ3:WillとMustのリンクを探す
ステップ1と2で出てきた情報を突き合わせ、「君のやりたい〇〇は、会社のこのプロジェクトで実現できるね」という接点を一緒に発見する作業です。これが目標共創の本質的なパートです。個人の成長と組織の成果が重なる「スイートスポット」を見つけることで、目標は「ノルマ」から「約束」に変わります。
この「WillとMustのリンク」は、コーチングの問いかけ技術と組み合わせると効果が高まります。コーチング質問術:主体性を引き出す問いかけも合わせてご活用ください。
ステップ4:目標を自分で書かせる
合意した内容を最終的に言語化するのは部下自身です。マネージャーが書いた目標を「確認してサイン」するのではなく、部下が自分の言葉で書いた目標に対してマネージャーがフィードバックする形が理想です。「自分の言葉で書いた目標」には、オーナーシップが宿ります。
「SMART + W」で目標に魂を込める
SMARTの法則の限界
目標設定の代表的なフレームワーク「SMART」は、Specific(具体的)・Measurable(測定可能)・Achievable(達成可能)・Relevant(関連性)・Time-bound(期限付き)の頭文字を取ったものです。合理的で優れたフレームワークですが、Z世代に対しては「心が動かない」という致命的な弱点があります。
正しく、具体的で、測定可能な目標でも、ワクワクしなければZ世代は動きません。「前年比105%達成」という目標より、「業界の常識を覆す顧客体験を作る」という目標の方が、彼らの行動エネルギーを引き出します。
W(Will/Exciting)を加える
そこで、SMARTに「W(Will/Exciting)」という第6の要素を加えることを提案します。
- Specific(具体的)
- Measurable(測定可能)
- Achievable(達成可能)
- Relevant(関連性)
- Time-bound(期限付き)
- Will(その目標を見て、心がワクワクするか?)
この「W」こそ、Z世代が自走するかどうかの分岐点です。SMARTの進化形については、SMART2026:目標設定の進化形も参考にしてください。
心理的安全性と目標設定の深い関係
「失敗を責められる」環境では目標を高く設定できない
目標共創プロセスが機能するためには、前提条件があります。それは心理的安全性です。「高い目標を設定して失敗したら評価が下がる」という恐怖がある環境では、部下は必ずサンドバッキング(意図的な低め申告)を選びます。
Googleのプロジェクト・アリストテレスが証明したように、最も高いパフォーマンスを発揮するチームの共通項は「心理的安全性」でした。チャレンジングな目標を設定させたいなら、まず失敗しても責められない文化を作ることが先決です。詳しくは心理的安全性の科学:Googleが証明した最強チームの条件をご覧ください。
「ぬるま湯」にしないための設計
「心理的安全性を高めると、チームがぬるま湯になる」という誤解があります。これは完全な誤りです。心理的安全性とは「何をしてもいい環境」ではなく、「チャレンジを恐れず、失敗から学べる環境」のことです。高い目標に向かって挑戦する勇気を生むのが、真の心理的安全性です。
この誤解を解消するためには、心理的安全性の誤解:「ぬるま湯組織」との決定的違いを読むことをお勧めします。目標管理と心理的安全性を同時に機能させることで、Z世代が本来持っている「自律的に動く力」が最大限に引き出されます。
目標設定後の「継続」を支える仕組み
1on1で目標を生きたものにする
目標は設定した瞬間ではなく、設定後の継続的な対話によって初めて機能します。週次・月次の1on1の中で、進捗を確認するだけでなく、「なぜうまくいっているのか」「何が障害になっているか」を一緒に言語化することが重要です。
1on1で目標を扱う具体的な方法については、効果的な1on1の7ステップ:2026年最新フレームワークが実践的なガイドになります。目標設定と1on1の組み合わせで、Z世代の成長サイクルを加速させることができます。
進捗の可視化でモチベーションを維持する
人は進んでいると感じることで、モチベーションを維持できます(進捗の原理)。Z世代に対しては特に、「今どこにいるか」を視覚的に示す工夫が有効です。スプレッドシートでもツールでも構いません。「見えない進捗」は「ない進捗」と同じに感じられます。
公正な評価プロセスも、目標継続の重要な支柱です。達成への努力が正しく評価されると信じられる環境を作ることが、Z世代の長期的なコミットメントを引き出します。公正な評価の原則:納得感を生む評価制度も合わせてご参照ください。
会話例:NGとOKで見る目標設定の実際
理論だけでは実践が難しいため、具体的な会話例を紹介します。
よくあるNGパターン
- 「今期は売上120%達成ね。よろしく」——理由も背景もなし
- 「この目標でいいよね?」——合意を求める形だが実質押しつけ
- 「昨年の反省を踏まえて…」——過去の失敗から入り、萎縮させる
目標共創のOKパターン
- 「最近、仕事でどんなことをやってみたいと思ってる?」——Willを引き出す入り口
- 「会社として今期はここを目指しているんだけど、その中で君が挑戦できそうなことって何だと思う?」——MustとWillを接続する問い
- 「この目標、自分の言葉で書いてみてくれる?次回一緒に確認しよう」——自己決定を促す締め
こうした「問いかけの技術」は、1on1全体の質にも直結します。本音を引き出す技術:心理的安全性と信頼構築も参考にしてください。
明日から実践できる5つのアクション
以下のアクションは「完璧な目標共創プロセス」を一気に構築しようとするものではありません。まず一つだけ試してみることが大切です。
- 次の1on1でWillを聞く:「最近、仕事で一番面白いと思っていることは?」という質問一つから始める
- 目標の「Why」を言語化する:今設定されている目標に「なぜその数字か」の背景を加える
- 部下に目標を書かせてみる:まず下書きを書かせて、その後フィードバックする形に変える
- OとKRを分けて話し合う:「何をしたいか(定性)」と「どう測るか(定量)」を別のステップで扱う
- 小さな達成を可視化して祝う:中間目標のクリアを見逃さず、チーム全体で認める文化を作る
【現役管理職の見解:目標は「渡すもの」ではなく「一緒に作るもの」】
正直に言うと、私もかつては「目標を渡す側」として何年も過ごしていました。数字を作って、期首に伝えて、期末に振り返る。その繰り返し。でも、ある若手メンバーに「この目標、自分には関係ない気がする」とぽつりと言われたとき、何かが変わりました。
私が専門にしているWebや企画の領域は、「正解がない仕事」です。だからこそ、目標は最初から一緒に考えるしかない。「会社が向かいたい方向」と「この人が本当にやりたいこと」の重なりを探す作業は、簡単ではないけれど、それ自体がマネジメントの醍醐味だと今は思っています。
MBTIでINTJタイプの私は、構造や論理が好きです。だから最初はOKRやSMARTといったフレームワークに頼りがちでした。でも実際には、フレームワークよりも「この人の目が輝く瞬間を見逃さない」という感度の方が、何倍も大切だと気づきました。
Z世代は「意味」に敏感です。「なぜこの目標なのか」が腹落ちしない限り、彼らは動きません。でも逆に言えば、腹落ちした瞬間の推進力は、どの世代よりも強い。あなたのチームに、まだ火がついていない人はいますか?その人のWillを、今度の1on1で少し丁寧に聴いてみてください。


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