ゴールマンのリーダーシップ6類型とは?状況別の使い分け術

1 リーダーシップ

「チームの空気が重い時」「未曾有の危機的状況に陥った時」「新規事業を立ち上げる時」——すべてのビジネスシーンにおいて通用する「万能のリーダーシップ手法」は存在しません。
状況(シチュエーション)が変われば、リーダーに求められる振る舞いも劇的に変わります。

これを科学的に証明し、マネジメントの世界にパラダイムシフトを起こしたのが、ダニエル・ゴールマンによって提唱された「リーダーシップの6類型」です。
彼の長年にわたる研究によって、「優秀なリーダーは、その時々の状況に応じて6つのリーダーシップスタイルを的確に使い分けている」という事実が明らかになりました。

本記事では、ゴールマンの6つのリーダーを振り返りながら、「具体的にどのようなビジネスシチュエーションで、どのリーダーシップのスイッチを入れるべきか」という、極めて実践的な使い分け術(シチュエーション別マニュアル)を徹底解説します。

おさらい:ゴールマンの6つのスタイル

それぞれのスタイルの詳細とメリット・デメリットについては、ゴールマンのリーダーシップ6類型とは?成果を出す使い分けのコツにて詳しく解説していますが、使い分けるためには大前提となる以下の6つの引き出しを頭に入れておく必要があります。

  1. ビジョン型(Authoritative): 目指すべき強烈なビジョンを示し、そこへの到達方法は委ねる。
  2. コーチ型(Coaching): 部下の将来の目標と組織の目標をリンクさせ、中長期的な育成を支援する。
  3. 関係重視型(Affiliative): 「人間関係ファースト」で、チーム内の感情的な絆や調和を作り出す。
  4. 民主型(Democratic): 部下の意見を広く聞き入れ、参加意識を高めながら合意形成を図る。
  5. ペースセッター型(Pacesetting): リーダー自身が高い基準を実践し、「俺の真似をしろ」と部下にプレッシャーをかける。
  6. 強制型(Coercive): 「四の五の言わず、今の指示通り動け」と絶対服従を求める。

優秀なリーダーは、これら6つの仮面を、状況(シチュエーション)に合わせて見事に付け替えるのです。では、具体的な状況別に見ていきましょう。

シチュエーション1:組織の方向性が迷走している・変革期にある時

事業の成長が頭打ちになり、既存のやり方が全く通用しなくなった「変革期」や、チームが「何のためにこの仕事をしているのか」を見失い、迷走している状況です。

発動すべきスタイル:【ビジョン型】(+変革型)

このような状況で、民主型のように「みんなはどう思う?」と聞いて回っていては、船は沈み続けます。「我々は3年後、業界の常識を覆すこのプロダクトを完成させる!」という、胸躍るような新しいビジョンを明確に提示し、メンバーに「新しい意味(パーパス)」を与える必要があります。変革型リーダーシップの重要性とは?VUCA時代に必要な資質と事例で語られているような、力強い求心力が求められます。目標だけを示し、そこに至るルート(戦術)はある程度任せることで、メンバーのやる気が一気に発火します。

シチュエーション2:チーム内に激しい対立があり、雰囲気が最悪な時

プロジェクトの失敗や部署間のセクショナリズムにより、お互いが責任を押し付け合い、メンバー間の感情的な亀裂(ギスギスした雰囲気)が修復不能なレベルに達している状況です。

発動すべきスタイル:【関係重視型】

ここでビジョンや業績(数字)の話をしてはいけません。「傷ついた人間関係の修復」を最優先事項とします。
業務を離れて腹を割って話す飲み会をセッティングしたり、メンバー一人ひとりの心の痛みに寄り添い「よく頑張っているね」と労いの言葉をかけたりします。業績追求を一時的に脇に置き、感情の接着剤となることで、チームの心理的安全性を回復させることが先決です。

シチュエーション3:経験豊富で優秀な部下が「新しいアイデア」に詰まっている時

メンバー全員が自立したプロフェッショナル(SL理論でいうM4状態)であるにもかかわらず、マンネリ化しており、新しいブレイクスルー(アイデア)が必要な突破口を探している状況です。

発動すべきスタイル:【民主型】

リーダー一人の知恵には限界があります。「次の一手について、皆の自由な考えを聞かせてほしい」と場を設け、メンバーの専門知識とアイデアを限界まで吸い上げます。トップダウンで決めるのではなく、全員で合意形成(コンセンサス)を行うことで、最高のイノベーション案が誕生する可能性が高まります。

シチュエーション4:全く予測不可能な緊急事態(危機・倒産寸前)の時

サーバーがダウンし顧客データが流出している真っ最中、あるいは会社が倒産の危機に瀕し、一刻の猶予もない絶体絶命のパニック状況です。

発動すべきスタイル:【強制型】

ここでは対話や合意形成をしている時間はありません。
「Aさんは直ちに顧客に謝罪のメールを打て、Bさんはシステムをシャットダウンしろ!」と、独裁的かつ強制的な指示命令にパチンッとスイッチを切り替えます。
平和な日常で「強制型」を使うと組織風土が破壊されますが、危機的状況の突破には、迷いなき独裁(強制力)がチームの不安を和らげ、迅速な鎮火を可能にします。事態が収束したら、すぐに別のスタイルに戻すことが鉄則です。

シチュエーション5:部下が「成長の壁」にぶつかり悩んでいる時

部下が現状のスキルに限界を感じていたり、今後のキャリアパスに悩んだりしている(意欲はあるがどう進めばいいかわからない)状況です。

発動すべきスタイル:【コーチ型】

目先のタスクのやり方を教えるのではなく、長期的な視点での伴走にシフトします。
「3年後にはマネージャーになりたいんだよね?だとしたら、今直面しているこの壁を、君ならどう乗り越えるのがベストだと思う?」と問いかけます。コーチング型リーダーシップのメリットと実践的な5つのステップを実践し、一時的な効率低下には目をつぶり、部下の自発的な気づきと自律(当事者意識の発芽)を促します。

【危険】プレイングマネージャーが陥りやすい罠

日本の多くのマネージャーが最も無意識に使ってしまっているのが「ペースセッター型(自分が誰よりもハイパフォーマンスを見せつけてプレッシャーをかける)」です。
「俺と同じスピードで動け。できないなら俺がやる」という態度は、メンバー全員のモチベーションと自己肯定感を著しく破壊します。ペースセッター型は、「メンバー全員が極めて意欲が高く、お互いにライバル心を燃やしている優秀な専門家集団」を一時的に牽引するときにしか使ってはいけません。

まとめ:状況は刻一刻と変化している

「今日はとても良い会議ができた。皆の意見を聞く(民主型)のは素晴らしい」と満足していても、明日の朝にはシステムトラブルが起き、「強制型」に切り替えざるを得ないかもしれません。

ゴルフで18ホールを回る間に無数の状況変化があるように、ビジネスの現場でも状況は常に変わり続けます。リーダーの役割は、自分が「このスタイルが好きだから」で選ぶのではなく、目の前の風向き、湿度、ボールのライ(今の部下とチームの状況)を瞬時に分析し、「今はどのスタイル(クラブ)を握るのが、組織全体にとっての最適解か」を冷静に選択し続けることです。

この「使い分けの極意」を日々意識することで、あなたのマネジメントの引き出しは格段に増え、いかなる困難な状況にも対応できる卓越したリーダーへと進化していくはずです。

【現役管理職の見解:リーダーシップは「人格」ではなく「道具箱」である】

ゴールマンの6類型を学ぶと、多くの人は「自分はどのタイプだろう?」と自分に当てはまる型を探してしまう。だが、現場で泥臭くマネジメントを続けてきた僕の結論は少し違う。リーダーシップとは「性格」ではなく、目的を達成するために使い分ける「道具」そのものだ。

Webディレクションや新規事業の現場は、天候が数時間で変わる雪山のようなものだ。平時には「民主型」で知恵を絞り、「コーチ型」で若手を伸ばす余裕があっても、システム障害や炎上案件という吹雪に直面すれば、迷わず「強制型」や「ペースセッター型」のカードを切らねばならない。僕自身、かつて「嫌われたくない」という一心で関係重視のスタイルに固執し、決断を遅らせてチームを疲弊させた苦い経験がある。あの時、僕に足りなかったのは優しさではなく、状況に応じて自分を切り替える「覚悟」だった。

システム思考で捉えれば、リーダーの振る舞いはチームという動的なシステムを最適化するための「変数」に過ぎない。自分の「素」の性格に縛られる必要はないんだ。

「今はコーチングのカードを切る」と心の中で唱えてから声をかける。そんな少し冷めた、メタ的な視点を持っていい。その葛藤と使い分けの跡こそが、あなたのリーダーとしての深みになる。正解の型なんてない。ただ、目の前のチームが今、何を求めているか。その一点に集中して、自信を持って道具箱を開いてほしい。


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